預り証(預かり証)の書き方ガイド
領収書との違い・返還条件・収入印紙
この記事の要点
- 領収書との違いは「返還するかどうか」。預り証は所有権が移らない
- 返還条件を書かない預り証は、返すときに揉める。期限か事由を必ず示す
- 金銭・有価証券で5万円以上は収入印紙が要る。物品だけの預りは不要
1. 領収書との違いは「返すかどうか」
預り証(預かり証)は、金銭・物品・有価証券を一時的に預かった事実を証明する書類です。敷金、保証金、集金代行、金型や機材の保管といった場面で発行されます。
領収書と形は似ていますが、性質は正反対です。領収書は代金の受取り、つまり所有権が相手から自分へ移ったことを示します。預り証は所有権が移らず、いずれ返すことを前提にした書類です。
この違いを取り違えると実害が出ます。敷金を受け取って領収書を出すと、返還義務のない代金として受け取ったと読める書面が残ります。
| 書類 | 所有権 | 返す前提 |
|---|---|---|
| 領収書 | 相手から自分へ移る | なし(代金の受取り) |
| 預り証 | 移らない(相手のまま) | あり(同じものを返す) |
| 借用書 | 移る(消費貸借) | あり(同種・同額を返す) |
金銭を預かる場合、預り証と借用書の線引きも問題になります。使わずにそのまま返すなら預り証、いったん使って同額を返すなら借用書や金銭消費貸借契約書の領域です。
書類全体の使い分けは帳票の比較ガイドにまとめています。
2. 「預り証」と「預かり証」はどちらで書くか
結論から言うと、どちらも誤りではありません。書類の効力は表題の送り仮名では変わらず、預かった事実と返還条件が読み取れるかで決まります。
由来は送り仮名の規則です。「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)では「預かり」が本則で、読み間違えるおそれのない複合語は送り仮名を省いてよいという許容が置かれています。
この許容を適用する語として、公用文の基準(公用文における漢字使用等について・平成22年内閣訓令第1号)は「預り金」を明示しています。法令・会計科目で「預り金」が定着しているのはこのためです。
| 表記 | 位置づけ | 使いどころ |
|---|---|---|
| 預かり証 | 本則どおりの送り仮名 | 取引先・個人へ渡す書類。読みやすさを優先する場面 |
| 預り証 | 許容形。公用文・法令用語の慣行 | 「預り金」勘定や契約書の用語と揃える場面 |
| 預り書・預かり書 | 同じ書類を指す別称 | 既存様式を引き継ぐ場合のみ。新規採用は避ける |
3. どこに何を書くか
法定の様式はありません。ただし「何を」「誰から」「いつまで」「どうなったら返すか」が読み取れないと、証憑として機能しません。実際の出力例で確認します。
- 1
書類名
「預り証」と明示します。領収書の様式を流用して表題だけ変えるのは避けてください。
- 2
預り金額・預り品
金銭なら金額、物品なら品名と数量。金型のように特定が必要なものは型番まで書きます。
- 3
預り証番号・発行日
発行日は実際に預かった日にします。番号は返還時の照合に使います。
- 4
預り種別・預かり目的
金銭・物品・有価証券の別と、敷金・保証金・集金代行・物品保管などの目的を選びます。
- 5
但し書き
「〇〇の敷金として」のように、何に対する預りかを一文で示します。
- 6
返還条件
この記事で最も重要な欄。次のセクションで書き方を扱います。
- 7
預ける側(宛先)
預けた本人の氏名・名称。返還先を特定する情報になります。
- 8
預かる側(発行元)
自社の名称・住所・連絡先。参照番号に契約番号を入れると契約と紐づきます。
4. 用途別の書き方の型
記載項目は共通でも、何を預かるかで「特定に必要な情報」が変わります。ここを外すと、返還時に対象が確定できない預り証になります。
| 用途 | 特定に必要な情報 | 返還時の論点 |
|---|---|---|
| 敷金・保証金 | 物件名と部屋番号、賃貸借契約の締結日 | 原状回復費用・未払賃料を差し引いて返す |
| 現金(集金代行) | 入金日と入金者、対象の請求書番号 | 全額をそのまま引き渡す |
| 物品(金型・機材・鍵) | 品名・型番・数量・受入時の状態 | 同一物を同じ状態で返す |
| 有価証券(手形・小切手) | 証券番号・振出人・金額・満期日 | 取立前に原本を返す |
敷金は特に取り違えが起きやすい用途です。同じ入居者が複数の部屋を借りている場合、物件名だけの預り証では、どちらの契約の敷金なのかが後から決まりません。
金額が動いたときの扱いも決めておきます。増額改定や一部充当で預り額が変わったら、覚書で変更内容を残したうえで預り証を再交付し、旧預り証は回収します。
集金代行のように他人のための現金を預かる場合は、自社の売上と混ざらないことが要点です。会計側では預り金として負債に計上し、引き渡しの都度取り崩します。
一方、代金の一部を先に受け取る前受けは預り証の対象ではありません。そのまま返す前提がないため領収書を発行し、会計上も前受金として扱います。充当や返金の条件は契約側で定めます。
5. 返還条件の書き方
預り証で最も揉めるのは返還のタイミングです。「契約終了後」とだけ書かれた預り証は、契約終了の判定と返還までの日数の両方が曖昧なまま残ります。
返還条件は「起点となる事由」と「そこからの期間」の2つで書くと具体化します。どちらか一方では決まりません。
| 避けたい書き方 | 具体化した書き方 |
|---|---|
| 契約終了後に返還 | 製造委託契約の終了時、または申し出から14日以内に返却 |
| 作業完了後 | 検収完了の通知日から10営業日以内に返却 |
| 必要なくなったら返す | 2027年3月31日、または貴社からの返却請求から7日以内 |
金銭を預かる場合は、返還時の状態も決めておきます。敷金のように原状回復費用を差し引いて返すなら、差引の根拠と精算方法を契約側で定め、預り証からはその契約を参照します。
6. 収入印紙の要否判断
預り証は、金銭または有価証券を預かる場合に印紙税法上の受取書に当たり得ます。敷金や保証金の預りは売上代金以外の受取書(第17号の2文書)として扱われ、記載金額5万円以上で200円の収入印紙が必要です。
物品だけを預かる預り証は、金銭・有価証券の受取書ではないため課税文書に当たりません。金型や機材の保管で発行する預り証に印紙は不要です。
| 預り種別 | 記載金額 | 収入印紙 |
|---|---|---|
| 金銭・有価証券 | 5万円以上 | 200円(第17号の2文書) |
| 金銭・有価証券 | 5万円未満 | 不要(非課税) |
| 物品のみ | — | 不要(課税文書に当たらない) |
営業に関しない受取書は非課税とされているため、事業として行うのでない個人間の預りでは扱いが変わります。判断に迷う場合は国税庁の資料を確認してください。
5万円の判定は「記載金額」で行います。預かる金銭が消費税の課税対象となる取引の代金で、消費税額を区分して記載している場合は、その消費税額を記載金額に含めません。
集金代行で税抜4万9千円と消費税額を分けて書けば非課税、という判断がこれに当たります。ただし免税事業者が区分記載しても、その額は記載金額へ含めて判定されます。
敷金・保証金のように消費税が課されない預りには、この扱いは使えません。対価ではないため区分すべき消費税額がそもそも存在せず、預り額がそのまま記載金額になります。
| 状態 | 徴収される額 |
|---|---|
| 貼っていない(調査で判明) | 本来の印紙税額の3倍 |
| 貼っていないが自主的に申し出た | 本来の印紙税額の1.1倍 |
| 貼ったが消印していない | 消印していない印紙の額面相当額 |
過怠税は法人税の損金・所得税の必要経費に算入できません。200円を惜しんだ結果が、経費にもならない出費として残ります。詳細は国税庁「印紙税を納めなかったとき」を確認してください。
同じ論点は領収書側にもあります。判断の枠組みは領収書の書き方ガイドで詳しく扱っています。
7. 返還までの実務
預り証は、発行して終わりではありません。返還までの期間、預かっている側には保管義務が続きます。物品の場合は保管中の破損・紛失の責任範囲を契約側で決めておきます。
預かっているものが多いときは、預り証番号と返還期限の一覧を持つと期限切れに気づけます。番号を発行月と対応づけて採番しておくと、後から特定しやすくなります。
電子で授受した預り証は、電子帳簿保存法に沿って電子のまま保存します。印刷して紙で保管する運用は要件を満たしません。
預けた側が預り証を紛失することもあります。原本を回収できない以上、返還したのに預り証だけが残るという最悪の形は避けられません。
この場合は、原本の回収に代えて返還の記録を作ります。預り証番号・預り対象・紛失した事実・返還を受けた事実を1枚に書き、双方が署名した書面を取り交わします。
保存要件の詳細は電子帳簿保存法の解説を参照してください。記載する内容が決まったら、そのまま預り証作成フォームで作成できます。
一次情報の出典
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